TPPについてのメリット・デメリット/Q&Aを必死で考えまとめてみた:その1(イントロ)

こんにちは。先日「TPPについて0から学ぶためのオンライン資料のまとめ」をまとめたrio_airです。

10月10日に野田首相「議論して早急に結論を得る」ように政府・民主党に支持してから、急にTPTに注目が集まり始めました。それから10日以上経ちます。ようやく少しずつまともな情報がマスコミからも少しずつ流れる兆しは見え始めましたが、まだまだ国民的議論を行なうには到底ほど足りません。

上記のまとめの入門に載せてあるサイトはとても分かりやすいのですが、正確な知識に基づいて書かれていない部分もやや見受けられます。このまとめでは、中級編以上の資料やその他の資料から得られた、より正確な情報・知見を基にした、「忙しいけれどTPPの事をキチンと知りたい人のためのまとめ」を心がけてお届けいたします。なお、この文章はQ&A形式で進みます。メリットとデメリットの分析ができる質問においては、それらを挙げています。

(ちなみに私の現在の意見は、今回のTPPは見送って、アメリカとは医療・金融・保険・その他日本の根幹に関わる部分を保護した形のFTA/EPAを結べるならば後日(数年後)結び、その他の国とはもっとオープンなFTA/EPAを結ぶべきというものです。このまとめもこの視点の影響を受けている部分もあるかもしれませんが、できるかぎり客観的な情報になるように努めます。)

Q. TPPに加盟すると具体的に何が変わるの?

A. 現段階では確定ではありませんが、TPPでは「投資」「金融」の項目をアメリカが最重要視している事と、
日米経済調和対話などでアメリカが再三日本に要求してきた事を合わせて考えますと、
「最終的に日本のほぼ全ての業界が、アメリカ型の利益至上主義の経営を求められるようになり、日本の経済・社会(最悪の場合は文化)の構造が(良くも悪くも)アメリカのものに近づいていく」ことになります。

少し読者の方に危機感を持っていただくために、悪い変化の可能性の具体例を挙げますと

  1. 公的医療制度の崩壊。(手術・入院で数百万円・お金の無い人は治療が受けられなくなる。)
  2. 生産性の低い正社員の大量リストラ・非正規雇用の増加。
  3. 採算の合わない工場の海外移転加速とそれに伴う大量失業。
  4. 公共事業の入札への外資参入による地方の経済疲弊。
  5. エネルギー・放送・通信・鉄道・航空・貨物・武器等の基幹産業の企業を外資が買収可能になる。
  6. 郵貯簡保・共済を外資に買収され、その資金(数百兆円)の運用権を握られる。
    • (その他の金融機関・保険会社も今以上に買収のリスクに晒される。)
  7. (関税の撤廃による)第一次産業の衰退とそれに伴う失業と食料安全保障の危機。
  8. GDPは効率化により増えるかもしれないが、経済格差や生活の質(特に医療面で)が悪化する可能性大。

などになります。

TPPによる良い(と言われている)変化の可能性の例を挙げますと

  1. 様々な分野での構造改革起爆剤になる。
  2. 外交上、アメリカとの関係がより緊密になる。(より強い隷属という形で。)
  3. 海外進出を進める多国籍企業にとって大きなビジネスチャンスになる。
  4. 労働市場において、本当の能力主義が育つ可能性が高くなる。
  5. 外資ベンチャーキャピタル等から投資を受けて、新しい事業が生まれる可能性が増える。
  6. 選挙を通じては成し得ない、様々な社会保障費(医療・介護)の削減を「外圧」を理由に断行できる。
  7. 既に「社会の公器」という理念を忘れかけている電力・マスコミ業界を競争に晒して原点に立ち戻らせる。

などが考えられます。

TVや新聞では農業が衰退して、工業が発展するから日本経済としては全体的にプラスになるというイメージで報道されることが多いです。しかし、実際にはそれよりはるかに大きな範囲で、日本の経済・社会・文化のカタチを変えてしまうほどの変化をもたらしかねないのがTPPです。上記の変化はまだ推測の段階ですが、まずは読者の皆さんに危機意識と興味を持っていただきたく思いましたので、起こり得る可能性が十分にあるものも敢えて含めて挙げました。なぜそれが起こりえるのかという詳細は次回より追って説明したいと思います。

Q. TPPとは何?

A. Trans-Pacific Partnershipの略で、日本では「環太平洋 "戦略的" 経済連携協定」と呼ばれることが多いです。(長すぎて一発では絶対に覚えられそうもありませんね。より近い訳は「環太平洋連携協定」です。)関税・規制撤廃&各種制度の統一化を行って、参加国内で自由貿易圏を作ろうという構想です。参加国はシンガポールブルネイ・チリ・ニュージーランドが当初の加盟国で(既にこの4ヶ国内での協定、通称P4は発効済)、その後にアメリカ・オーストラリア・ベトナム・チリ・マレーシアが現時点では参加表明&交渉を行っています。実質的な主導権はアメリカにあり、アメリカがアジアでの経済的・軍事的プレゼンスを維持・強化し、中国に対抗するための枠組みだという考えが一般的です。TPPの基礎事項についてまだよく知らない方は、「TPPについて0から学ぶためのオンライン資料のまとめ」の入門編に載せてあるサイトをご覧いただくと、さらに詳しい基礎情報が得られると思いますので、ご参照ください。

Q. なぜ野田内閣はこんなに急いでTPPに参加しようとするの?

A. 11月12日から行われるAPEC首脳会議で日本がTPPへの参加表明する事が、オバマ大統領にとっては政治的にとても重要だからです。(9月21日に行われた日米首脳会談でアメリカ側から野田首相に強い要請が行われたとの見方が強いです。)オバマ大統領はTPPに日本と共に加盟するという実績を作り、来年11月にある大統領選挙戦の武器にすることをもくろんでいます。したがって、オバマ大統領の出身地でもあるハワイのホノルルで開かれるAPEC首脳会議でその発表をすることに大きな政治的意味があり、そこで日本が参加表明をしないと日米政府の間でやりとりされた何らかの交渉(おそらく普天間基地問題やその他の安全保障に関する事)の意味が無くなってしまうためだと推測されます。
(10/28 追記: 上記の推測が大筋で当たってることを示す政府内部情報がリークされました。)

またTPPの交渉会議は、国家戦略室の資料によると、来年に後5回ほどの予定なので(これまでは、現在ペルーのリマで行われているものを含めて9回の交渉会議が行われています)、できる限り早く参加表明をしなければ、例外条項の交渉すらできずに参加の決断を迫られることになります。(来月のAPECで参加表明をしても大枠を変えることは難しく、例外条項や細かい部分の交渉のみに限定されると予想されます。)ですので、交渉に参加することを国として決断したあとは、できるだけ早く参加表明をした方がよいことは確かです。つまり、後一年くらい韓国FTAや世界情勢の様子を見てから決めよう、という選択は意味がありません。できるだけ早く入るか入らないかを決断する必要はあります。(今ある限り全ての情報を基にした十分な論議の上でですが。)

Q. とりあえず交渉の参加だけしてみてもいいのでは?

A. TPP賛成派の意見でよく聞かれるのが、「とりあえず交渉には参加しなければ、交渉条件も分からないので決断できない。交渉に参加してみて条件が折り合わなければその時に降りることを決断すればいいのでは?」という意見です。これには大きく二つの誤認識が含まれています。

1)TPPの交渉内容は、既にかなりの部分が推測できている。
「新しい協定となる TPP」「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉の現状」等の資料で示されているように、既に一般人がネットで無料で手に入る情報からでもTPPの大枠と大体の交渉内容をつかむことができます。政府内の人はこれ以上の情報を当然知っているでしょうし、基本的な枠組みは既存のFTA/EPA条項やWTOの条項をベースにそれを発展させたものになりますので、交渉参加前にどのような交渉が行われていて、どのような交渉がこれからできるのかという推測は、ある程度は可能です。(逆に、もしこれくらいの基本情報や認識を政府が持っていないとしたら、そのような無能な政府には交渉は危なくて任せられません。)

2)交渉に参加するということは、政治的にはTPPに参加することとほぼ同義。
手続き的には、途中でTPPへの参加を取りやめることはできます。国際会議上での条約署名前、国会での批准前、批准後の脱退と大きく分けて3つのタイミングが用意されていることは確かです。しかし、このいずれのタイミングで抜けても国際的信用を失い、特にアメリカの面子を潰すことになりますので日米関係は交渉に参加しない場合よりも悪化することが十分に考えられます。(一番マシなのが国会での批准を否決することのようですが、条約の批准は衆議院の可決が優先されますので、途中で選挙を挟みそうもない現状では、チェック機構として機能するかどうかは怪しいです。)

したがって、交渉への参加を表明する前には、出来る限りの情報を全国民に公開した上で国内の意見調整を行い、交渉の方向性・絶対に譲らない点を国民全体に明確に示した上で臨むのが、あるべき姿勢だと思われます。経済学者の高橋洋一氏がこの交渉に参加することを「合コンに参加するようなものだ」と例えたようですが、そんなに軽々しいものではないことは明白です。

Q. でもTPPに参加して困るのは農業だけなんでしょう?その他の産業が伸びてその損失を補えれば問題ないのでは?

A. 確かに農業も壊滅的な打撃を受ける可能性が高いですが、それだけではありません。後、他の産業が伸びる保障もありません。この質問については次回以降にさらに掘り下げて見てみたいと思います。