Keynote動画と共に振りかえるSteve JobsとAppleの歴史(前編:Macの誕生と再興 1997-2001年)

2011年の11月5日(米国西海岸時間)、あのAppleの創業者のSteve Jobsが亡くなりました。
全世界のAppleファンを魅了し、デジタル世界の行く末を切り拓き続けた彼の存在はあまりにも大きく、暗澹たる気持ちで一日を過ごした方も多いのではないかと思います。(私もその一人です。)

今日は、そんなSteve Jobsの存在と業績を偲んで、彼が残した数々のKeynoteの動画と共にAppleの歴史を振り返ってみたいと思います。昔からのMacユーザーの方には「こんな時代もあったね」と懐かしんでいただき、新しいAppleファンの方には「こんな時代もあったんだ」とSteve Jobsの別の面を発見していただければ、幸いです。

このシリーズは三部構成の予定で、前編では1984年頃のMacの誕生と、1997-2001年の新生AppleMacのスタートからiPodが発売されるまでを。中編ではiPodが登場してからiPhoneが発表されるまでの2001-2006年を。そして最後の後編ではiPhone登場の2007年以降の動画をご紹介していく予定です。動画はそれぞれのKeynoteのメイン製品の発表部分を中心にセレクトしたものを掲載しています。それらを見ればJobsがどのような"Reality Distortion Field(現実歪曲場)"を使って各製品を紹介・アピールしてきたのか分かっていだけるようになっておりますので、彼の凄みを堪能していただければ幸いです。(管理人は1998年夏頃からのMacユーザーなのでそれ以降の雰囲気・状況は大体掴んでいるつもりですが、もし認識に明らかな間違いなどがございましたら、コメント欄やブコメtwitterなどでご指摘いただければ幸いです。)

1983:悪の帝国IBMを描いた「1984」のCM

Steve Jobs初のKeynoteIBMを悪の帝国になぞらえた"1984"のCMの紹介はあまりにも有名です。Jobsはまだ29才くらいですが、スピーチで人を惹きつける力はこの頃から既に持っていたことを示す動画です。


1984/01/24:初代Macintosh

Keynoteでお馴染みのフレーズ"TODAY"はこの頃から既に始まっていました。その他のKeynoteの原形もすべてこの時点で揃っていることに驚きです。本当にプレゼンの神と呼ばれるゆえんの要素が凝縮されています。

1997/05/13 WWDCApple復帰後の初のスピーチ

Appleから一時追放されて、ようやく復帰してから初めての公開スピーチ(Closing Keynote)。80年代やiMac以降の頃程のオーラはそれほど感じませんし、かなり早口なので印象も少し違いますが、Appleから追放されて辛酸をなめて生き返ってきた凄みの一端を感じさせる動画です。Apple社史上最悪(存亡の危機)の時期ですし、まだJobsがAppleを掌握しきっていない(まだCEOはアメリオ氏だった)時期なのでビジネス的なトーンが強く感じられますが、iMaciPodなどの成功もただの思いつきやインスピレーションだけではなく、こういった緻密なビジネス戦略思考の基に生まれて発展していったのだと思うと感慨深いです。

1997/08/06 Macworld Expo Boston:Apple復帰後の初のKeynote & Microsoftとの提携

アメリオ氏をAppleから追放し、暫定CEOとして返り咲いてから初のKeynote。この時点でかなりの感触を取り戻してるのが見て取れます。新しいAppleKeynoteの原形がここに既にあります。Appleの新戦略と、宿敵であったMicrosoftとの提携(資金とMS Office for Macの提供)もこの場で発表されました。特にMSとの提携はAppleファンの間に大きな波紋を呼びますが、結果的にこれが壊滅寸前のAppleを救いiMacの登場へと繋げていくターニングポイント的な決断となったのですから、運命とは分からないものです。

1998/05/06 Special Event:iMac

Appleの新しいハードウェア戦略と共に、初代のiMacを初披露したKeynote。副社長のPhil Schillerも初登場の回です。ここから「PowerPC CPUはPentiumの同クロック数のものより2倍早い」事を示すための比較ベンチマークやデモのシリーズが始まります。Intel Macになってからはほとんど見られなくなりましたが、PowerPC時代からのMacファンにとっては懐かしの一幕ではないでしょうか?このKeynoteからJobsの「Reality distortion field (現実歪曲場)」の力が再び発揮され始めた気がします。

1998/05/11 WWDCOS Xのロードマップ

OSXのロードマップが初めて紹介されました。OS 9も出ていない時期でしたが、もう既にこの頃はJobsが所有していたNeXTをベースにしたOSXが開発中でした。動画がかなり粗いですが、これはストリーミング放送をキャプチャしたものだからだそうです。当時のストリーミング技術の未熟さと共に、そんな環境でも全世界のAppleファンがこの放送を見ていた熱い思いが感じられる動画でもあります。

1998/07/08 Macworld Expo New York:新しいAppleの船出

特に新しい発表は無いものの、新しいAppleの出発の体制が整ったことを大々的に宣言したKeynoteです。Appleへの注目が再び集まり始めたのもiMac発売直前のこの時期あたりからではないでしょうか?(私事ですが、私が初めての「パソコン」でもあるPowerMac 4400を購入したのもこの頃です。)

1999/01/07 Macworld Expo San Francisco:新 PowerMac G3(iMac風デザインの台頭)

青い新PowerMac G3、5色のiMacFirewire、Mac OSXサーバー、Mac用のゲーム展開などが発表されました。やはり、この頃から注目度が上がってきたためかネット上での記事も充実してきました。(ここからそれぞれのKeynoteに対応するImpress Watchの記事へのリンクも掲載します。)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990106/macw03.htm

1999/05/10 WWDC:OS 8・9・Xの全ての進展が同時発表

PowerBook G3 (Lombard)・OS8.6・OS9のプレビュー・OSX Developer Release1が発表されました。QuickTime 4のストリーミング機能を利用した初のリアルタイム配信での放送でもあります。白いセーターを着たJobsが見られる貴重な動画です。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990511/wwdc01.htm

1999/07/21 Macworld Expo New York:iBook

AppleMicrosoftの草創期の戦いを描いた映画「Pirates of Silicon Valley(邦題:バトル・オブ・シリコンバレー)」でJobsを演じたNoah Wyleによる紹介で始まるKeynoteiBookが初登場します。結構重めのiBookでしたが、Jobsの手にかかるとポータブルに見えてしまう不思議な現象を目の当たりにできます。これにより新生Appleの製品マトリックスが完成します。他にもAirpot(AirMac)とOS9が発表されました。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990722/macw_02.htm

参考:Pirates of Silicon Valleyの予告編

1999/08/31 Seybold San Francisco: PowerMac G4 & "One More Thing..."

PowerPC G4の初の紹介と共に、初めての「One More Thing...」としてCinema Displayが紹介されます。この頃まではMacWintel機に対して性能的にも勝っていたのですが、ここから段々と苦しくなってきます。Jobsのプレゼン力の真骨頂が発揮されるのもここからだと言えます。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990901/seybold2.htm

1999/10/05 Special Event:iMac DV

DVD-ROM・Firewire・Airport・iMovieを搭載したiMac DVが発表されます。特に「One More Thing...」で発表されたSpecial EditionのGraphite色は印象に残ります。お馴染みの「One More Thing...」「Available TODAY」が日常的になってくるのもこの頃からでしょうか。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/991006/apple1.htm

2000/01/05 Macworld Expo San Francisco: iCEO & Mac OS X

JobsがAppleの正式なCEOに就任したことが発表されたKeynote。そしてMac OSXの詳細とそのリリース日程が公開された時でもあります。この回からJobsのトレードマークの黒いタートルネックジーンズという服装が定番になって、お馴染みのKeynoteの形が整ってきました。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000106/macw_03.htm

2000/07/19 Macworld Expo New York:G4 Cube

Macのハードウェアの中で一番衝撃的とも言える紹介をされたのが、このG4 Cubeでは無いでしょうか?当時はあの小ささとスタイルの美しさに度肝を抜かれたものです。しかし、iMacよりも安いデスクトップ機が求める声も多かったため、iMacより高い価格($1799)が発表された時は、多くの落胆が生まれたと思われます。(実際G4 Cubeは、Jobsの熱い思い入れとは裏腹に販売低迷を続けて、販売停止の憂き目に遭うことになります。)この頃Wintel機の世界では1GHz競争をintelAMDが繰り広げていたのですが、G4はいつになっても500MHz以上にならず、Macが性能的に見劣りしてきました。それでもMacユーザーがあまり離れていかなかったのは、Jobsなら何かやってくれるという期待を起こさせる力があったのが大きな一因ではないかと思います。(まさかこの頃から、intel CPU用のOSXが同時並行で開発されているとは夢にも思っていませんでしたが・・・。)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000720/macw02.htm

2001/01/09 Macworld Expo San Francisco:PowerBook G4 Titanium

21世紀に入って初めてのKeynote。それに相応しく、iMac以来続いてきた透明デザインの流れを一新するデザインの起点となるPowerBook G4 Titaniumが発表されました。性能ではWintel機に勝てない時代を生き残った別の要因の一つは、この新しい流れのデザインと言っても過言ではないでしょう。このKeynoteを見た時は本当にPowerBook G4が欲しくてたまらなくなりました。製品の魅力を最大限にアピールするというのはこういうことなんだというのを体現した名Keynoteの一つです。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010110/mac02.htm

2001/05/01 Special Event:新デザインのiBook

PowerBook for the rest of us(他のみんなのためのPowerBook)」というテーマの下に、PowerBook G4系統の洗練されたデザインの新iBookが登場します。コンシューマーノート機が大きく・重く・デザインもダサかった時代に、このコンパクトさとデザインを$1299、158000円の価格で実現したのは衝撃的でした。(そして当然のように大ヒット商品となります。)この頃からこのApple社内のTown Hallで行われる発表が増えだします。

以上で前編は終了です。
中編以降もできる限り早くまとめていきますので、もうしばらくお待ち下さい。"Stay tuned!"